太郎冠者を生きる

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太郎冠者を生きる 野村万作 白水社

1984年に単行本として出された本の文庫化。
万作は1931年生まれだそうだから、まだ53歳の時です。ちなみにあのネスカフェの広告が1977年。あのとき「猿に始まり狐に終わる」というコマーシャルを見て、子供ながら「これ、見てみたいな」と思った記憶があります。

出版されたのが古いので、その間襲名があった人もあり、誰が誰やら最初はちょとややこしいですが、面白い本です。東京に出てきてやっと一家をかまえたおじいさん(万斉)が一家の基礎を作り、それをしのいで芸の基礎を作った父、万蔵。息子たちはさらに父を越えようか、という時点での話です。

気の向くままに口述したものをあとから字にした、ということです。編集者の手が入ってもいるようですが、本人が語る面白さや臨場感はあってもいささか統一性に欠ける仕上がりの本になってしまっています。すぐれたジャーナリストに聞き書きをして書いてもらった方が良かったのでは、とも思いますがこれはこれでまた別の面白さがあるかもしれない。

万作が他のジャンルに色々踏み込んだり、海外公演をやったり、というのは初めてしりました。今の二世萬斎が、留学したり、現代劇をしたりするのは、やはり万作を意識してのことなのですね。

「釣狐」のあとにくるのは、「普通の太郎冠者を普通に演じる」という課題だそうです。万作59歳の時点を評した人は「まだまだ」と、文庫のための後書きに書いていますが。

これは絶版になってしまっているのでアマゾンの古書で買いました。
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# by soymedica | 2011-06-15 21:01 | 本・CD・その他 | Comments(0)

国立能楽堂 子盗人 熊坂

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国立能楽堂 普及公演 6月11日(土)
午後1時より
正面席 4800円

解説 義経伝説と盗賊 佐谷真木人

狂言 子盗人
シテ 石田幸雄、アド 高野和憲、小アド 野村万作

熊坂(金剛流) 長床几 青のヶ原道行
シテ 金剛永謹、ワキ 高安勝久、アイ 深田博治
笛 寺井久八郎、小鼓 曽和正博、大鼓 佃良勝、太鼓 桜井均
後見 廣田泰三、豊嶋幸洋



解説は真面目そうな先生。私の聞きたいことを話してくれました。義経伝説のあれこれなど。考えてみると私の常識は日本史の伝説部分が完全に欠落している。だって、日本史で義経ってあまり教えないでしょ?お話としては面白いけれど、本筋に絡む人ではない。そういえば忠臣蔵も教えませんよね。忠臣蔵がどんな話だかごく最近理解しました。でも、世の中の人はどこでそういう常識を身につけるのでしょう。


まず、狂言子盗人。盗みに入った家に寝ていた赤ん坊があまりに可愛いのであやしているうちに家の者に見つかってしまう間抜けな泥棒の話。解説で、サザエさんに出てくるような泥棒だと言っていましたが、うまい説明ですね。
石田幸雄、なかなかはまり役。孫をあんなふうにあやしそうな…。野村万作はもっと厳しい爺さんのような気がする。


熊坂
先に書いたように私は義経の話ってあまり得意じゃないのだけれど、熊坂長範ってどこかで聞いたような気がします。歌舞伎にも登場する有名な大泥棒だそうで、義経に退治されてしまった人。これは、熊坂が法体の幽霊になって出てきて旅の僧に「私を弔っておくれ」と頼むのが前場。後場は熊坂が義経の一行に夜襲をかけて逆に打ち取られてしまう様子を長刀を持って舞う、というもの。同じ話をリアルタイムとして語る「烏帽子折」を「現在熊坂」、こちらを「幽霊熊坂」と呼ぶのだそうです。

シテは前場は直面、後場は長霊べしみという特別の面をかけます。

…それでですね、金剛永謹さんと言う方、結構えらの張った立派なお顔なのですよ。ですから、大変失礼ながら後場の長霊べしみ面とあまりギャップが無いというか…。前場も幽霊らしくとっても怪しげな感じを出していました。今後私がチェックすべき能楽師リストに入れておこう。

金剛流というのは京都が本拠地だそうです。何となく謡がやさしい感じ、と思うのは先入観に縛られているでしょうか。舞が定評があるとききました。
小書きの長床几というのは後場の比較的長い間腰をかけたまま舞う、という演出だそうです。


本日は満席。脇正面に20人ほどの女子高生のグループがいたせいもあるのでしょうが、ちょっとびっくりしました。だって、この演目、あまり解説書にも無いし、人気演目では無いだろうと思っていたので。金剛永謹人気なのでしょうか。正面席は若者(私から見て)と、中年男性が目立ちました。
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# by soymedica | 2011-06-11 17:51 | 能楽 | Comments(0)

ベッジ・パードン

ベッジ・パードン

作・演出 三谷幸喜、企画・制作 シス・カンパニー
出演 野村萬斉、深津絵里、大泉洋、浦井健治、浅野和之
@世田谷パブリックシアター
S席 9000円



三谷幸喜の新作、ベッジ・パードンを見に世田谷パブリックシアターへ。
満席。

三谷幸喜は救急車騒ぎや離婚騒動の中、2作目御苦労さま(ま、余計なお世話か)。留学した漱石が恋をする、というお話。漱石さん、森鴎外になっちゃうの?と思わせる笑いあり、涙ありの3時間。
若干削って2時間くらいにした方が気軽に見られるのに。

漱石役は野村萬斉。萬斉、普通に立っている姿勢が「カマエ」。あれはわざと何だろうか??そして発声なども現代劇の役者とは異なるということがはっきりわかる。なので萬斉を現代劇の中に放り込むと、何だか一寸ズレがありまさに異邦人。初めに萬斉ありきの脚本だったらしいが、彼の異質性を上手く生かしたものだな、と感心。

一人11役などのアクロバットをする浅井和之、上手いな。
この劇は漱石を取り囲む他の役者が上手くないと漱石の異邦人性が浮き彫りにされないのだが、そして漱石役が別のしっかりした文脈を持っていないと成り立たないのだが、そこが上手く言っているので、とても楽しい。

これ、今後再演されることがあったら配役で印象がずいぶん変わるに違いない。

ということで大満足でした。
    
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# by soymedica | 2011-06-08 08:11 | その他の舞台 | Comments(0)

観世会定期能 6月

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観世会定期能 2011年6月5日(日)@観世能楽堂
正面席12500円


写真は観世能楽堂前の梅の木になっていた梅。(桃じゃないよね??)


賀茂
シテ 浅見重好、前ツレ 武田文志、天女 下平克宏、ワキ 大日方寛、アイ 三宅近成
大鼓 大倉正之助、小鼓 幸信吾、太鼓 小寺真佐人、笛 一噌康二

狂言 名取川
三宅右近、三宅右矩

千手 郢曲之舞
シテ 角寛次朗、ツレ 観世芳伸、ワキ 宝生欣哉
大鼓 守家由訓、小鼓 大倉源次郎、笛 松田弘之

仕舞 
芦刈 観世恭秀
自然居士 関根祥六
芭蕉 観世清和
猩々 武田宗和

能 鵺 白頭 附祝言
シテ 山階彌右衛門、ワキ 高井松男
大鼓 亀井実、小鼓 観世新九郎、太鼓 桜井均、笛 杉信太郎



賀茂

美しい女性が川で水を汲んでいると、上流から矢が流れてきたので持ち帰り軒にさすと、女性は妊娠し、子をうみました。子に「父は」と尋ねると、子は軒の矢を指差し、たちまち雷神が降りて来て、母も子も、神になりましたというお話。
これには「矢がホトに刺さり」、というちょっと直截なバージョンの神話もあるとか。
ネットで賀茂神社のホームページをみると、どうやら下賀茂神社にこの伝説があるらしい。上賀茂神社は雷神らしいので、こっちがお父さんかともおもうのだが、特に何も書いていなかった。忘れなければそのうち調べてみよーっと。誰か知っていたら教えてください。
(しかし、下賀茂神社のホームページに皇紀2671年ってでかでかとあった。何のことかわかる人、いないんじゃないだろうか。

それはさておき、楽しめました。脇能って退屈そうだと思っていたけれど(誰かが「竹生島」って退屈だと教えてくれたので)、前に見た「絵馬」もこれも華やかですばらしい。
シテの水汲み女が来ていた小袖が灰緑というのか、ちょっと抑えた色が使ってあってシック。

アイは末社の神様ということで、神様にもいろいろランクがあるのです。かるーいノリで、ワキに「ようこそ。偉い神様たちが出てくる前の退屈しのぎに、舞をおみせしましょう。」なんて、言っちゃいます。

後場の舞は天女と雷神と2種類見られて対比が面白いし、お得。



狂言の名取川は、忘れっぽい男が、川に名前を流しちゃう話。
こういう上品な笑いが能の間に入ると肩の力が抜ける、というのがよくわかる。


千手

一の谷の合戦で捕らえられた平重衡のもとに源の頼朝から遣わされた千手前が訪れる。出家を許されなかった重衡と千手は舞を舞い、酒を酌み交わして、一夜を惜しむという話。
林望さんの本によると、重衡は才気煥発、モテモテの色男だったようで、捕らえられた後もあちこちで惚れられていたらしい。
お能では、品よく酒酌み交わし舞を舞うだけだけれど、原作となった平家物語では前夜は入浴する重衡のお背中を流したり...。そこに座っているワキの狩野介宗茂さん、気を利かせてひっこまないと。

とてもきれいなのですが、あんまり印象に残らない曲でした。





これを見に来たのでした。(でも間で寝てしまった。まあ、大勢に影響ないが)。
どうも私は小鼓の観世新九郎がいつも気になる。「あれで、良いの?ああいうものなの?」というふうに。今まで何回か聞いた大倉源次郎のときには思わないから、相性でしょうか。
頼政に退治され、うつぼ舟に入れて流された怪物の「鵺」が化けて出るのを、旅の僧が祈って成仏させる話。
もともとが化けものなんだから、化けて出るって言うのも不思議な…。

切能というのだそうですが、鬼が出てきて盛んに舞う後半は、私にはどの曲も同じに見えます。前半、「いや、やられちゃったよ」と、鵺になったり頼政になったりのところのほうが、面白い。いや、後半の舞も見事でしたが。




参考
賀茂:能へのいざない 味方玄 淡交社
千手:能よ古典よ! 林望 檜書房
鵺:同上、
  粟屋能の会のホームページ、演能レポートに詳しいです。
  http://awaya-noh.com/modules/pico2/content0059.html
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# by soymedica | 2011-06-06 20:27 | 能楽 | Comments(0)

第27回 二人の会

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第27回 二人の会

2011年6月4日(土)14時
@十四世喜多六平太記念能楽堂
A席(正面後方) 7000円






狂言 二人袴
シテ(親)山本東次郎、アド(舅)山本則俊、アド(太郎冠者)遠藤博義、アド(聟)山本凛太郎

能 松風 見留
シテ 塩津哲生、ツレ 香川靖嗣、ワキ 宝生閑 アイ 山本泰太郎
大鼓 柿原崇志、小鼓 大倉源次郎、笛 一噌仙幸



そういえば「二人の会」があるんだ、と仕事の後で電話したら券ありと。1時少し前に能楽堂に到着し、扉の前で待つこと15分。かなり良い席が残っていました。2階自由席3000円というのも魅力的だったけれど、オペラグラスが無かったので。

時間が余ったので駅まで戻って何か食べよう、と歩いていたら、前から見覚えのある男の人が。思わず挨拶しそうになって踏みとどまった。粟谷明生でした。きちんとしたふつーのビジネスマン、という感じで地味に歩いていました。

有名な二人が演じる会ですが、どうやら塩津哲生と香川靖嗣の二人が交互にシテをやる、というコンセプトらしい、と当日パンフレットを見てわかった次第。
会場はお弟子さんらしいオバサマ(かなりおばあ様に近い)たちと、なぜか大学の先生と女子学生たち、という組み合わせ多し。


二人袴、有名ですね。舅どのに挨拶に行ってこい、と言えば「人形買ってくれなきゃいかない、子犬ほしい」などという幼い息子。「ああ、買ってやる、買ってやる」なんて甘やかすから聟入り(嫁のうちに挨拶に行くこと)にまで付いて来て欲しい、なんて言い出して、結局袴が足りない、ってことになっちゃうのですよ。
たぶん凛太郎クンの実年齢が聟に想定されている年齢に近いのでしょうね。息子を呼ぶのに「凛太郎」なんて呼んでましたから。
この聟の役をもっと年のいった人がやることはあるのでしょうか。


能 松風
とても有名な曲なのだそうですね。シテの塩津哲生はかなりでっぷりとした体形らしく最初のうちはそれが気になったのですが、途中からは全く気にならなくなったのは素晴らしい演技のためでしょう。でも、この方股関節が悪いのでは?(失礼)。

田舎に隠遁した業平が愛人とした現地の純真な姉妹が、業平が都に帰ってしまった後も業平を慕い、幽霊になって出てくるという話です。姉のほうが業平の残した狩衣と烏帽子を身につけて狂乱の舞を舞うところが見せ所。

謡では「月はひとつ、影は二つ」となっていて、私が見た写真でも水桶は二つの演出でしたが、喜多流は水桶は一つが普通なのでしょうか。

解説では
  ― 「破ノ舞」の中、松と舞台端の挟間を廻り込む難技を示す。橋掛りに舞い流れ、扇をかざして作り物を見込、み「破ノ舞」を舞い納める演出が小書「見留」である -
とのことです。

だったら、舞手の体格を見込んで、作り物をもっと奥に置いたらいいのに(笑)。だって、かなり引きずってびっくりしたんですもの。

今回、あまり主張しない笛が曲と合って良い感じではなかったかと思ったのでした。


色々な本で言及されている曲ですが、
これならわかる、能の面白さ 林望 淡交社
能 中世からの響き 松岡心平
能の表現 清田弘 草思社
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# by soymedica | 2011-06-04 23:15 | 能楽 | Comments(0)