銕仙会定期公演二月
2019年2月8日(金)18時から@宝生能楽堂 花月 シテ 野村四郎、ワキ 工藤和哉、アイ 山本東次郎 笛 松田弘之、小鼓 曾和正博、大鼓 柿原崇志 後見 大槻文藏、野村昌司 地謡 山本順之 引括 シテ 山本則孝、アド(太郎冠者)山本凛太郎、(妻)山本泰太郎 誓願寺 乏佐之走ぼさのかけり シテ 鵜澤久、ワキ 森常好、ワキツレ 館田善博、梅村昌功、アイ 山本則重 笛 八反田智子、小鼓 幸清次郎、大鼓 柿原弘和、太鼓 林雄一郎 後見 永島忠侈、清水寛二 地謡 観世銕之丞ほか 人気曲なのに今までちゃんと見る機会が無かった花月。野村四郎で観られるなんてラッキー、と思う客が多いのか、銕仙会の定期能にしては満席の本日。 照明のかげんなのか、先に入って来る囃子の松田&柿原両氏が痩せたように見える。 まずやって来る旅の僧工藤は前からやせ形。ちなみに後からアイの東次郎も一緒に入場。 筑紫の彦山からやってきた僧は7歳になる息子が行方不明になったのを悲しみ出家したのだとか。ちなみにグーグル先生が提示する「ひこさん」は「英彦山」で、なかなか凄いところです。ここなら天狗にさらわれたというのも納得。 しかし、お父さんが工藤だとすると、息子はもう40歳くらいになっていないだろうか…。 人の集まる京都で息子を探す父。 百万と違ってこのお父さんは自ら芸をするのではなく、清水寺で「何か面白いものは無いか」と門前の人に尋ねます。定座から橋掛にいる東次郎に尋ねると、「ちょうど花月という少年がおります」という返事。東次郎の語りは何だかとても格調が高いのですが、後から花月と一緒に芸をすることを考えると、この人もチップをもらって生活費の足しにしているくらいの人かもしれません。 花月を呼んだ東次郎はまた橋掛へ。 花月の名乗り。現在何歳という想定なのか不明ですが、さすがは天狗にさらわれた子、利口です。 アイはここで目付柱付近に移動。何をするのかなー、と思っていると、東次郎、腰を屈めて扇で顔を隠し、その肩に花月が手を置き、舞台を廻ります。恋人同士という想定。 そして、東次郎が目付柱に鶯を見つけ、花月に弓矢で射るように勧めます。弓矢を構えるポーズも見せどころです。 花月の装束はオレンジの水衣に黄色の大口と華やか。 ふっと「殺生はよそう」と弓矢を落とす花月。東次郎はそれを片付けながら「殺生戒がございましたなあ」と今度は地主のクセ舞を勧めます。 ここで謡われる清水寺縁起は田村のものとはまた違いますねえ。 ここで「あれはわが子か」と気づいた父が花月に身の上を尋ねると、やはり7歳の時に彦山で天狗に攫われたという。(どうやら旅の僧の名前は左衛門というらしい)。当時は僧のおおっぴらの妻帯はまだまだ珍しかったのでしょうか。東次郎は「出家が子を持つのか?!」と驚きますが、出家前の事だと聞いて納得。そういえば似ていますなあ、と。 芸事に未練があるのか、喜びを表すのにふさわしいと思ったのか、東次郎は鞨鼓を打って舞い納めてください、と頼むと橋掛へ。花月は後見座で鞨鼓をつけると、東次郎はわりとすたすたという感じでどこかに行ってしまいます。 見所も芸尽くしで満足したところでおしまい。ワキ、シテの順に帰ってめでたしめでたし。 いやあ、良かった! 喝食の面は近江作。 引括ですが、これも初めての演目なので楽しみにしていたのですが、花月の濃厚さに疲れて思わず爆睡。ごめんなさーい。 誓願寺は初めての曲(だと思う)。一遍上人登場。森、何となく運びがおぼつかないのだけれど、謡が始まるとやはり素晴らしい。弟子を連れて都にやってきました。葛桶に座るお上人様ですが、何となく一遍のイメージは下居する感じだなあ。 と美女がやってきて一の松あたりで謡いだします。ここでの上人との掛け合いが、美声同士とても美しい。見所うっとり。 地謡が始まると美女は舞台へ。 上人様からお札をいただきます。何となくこのビジュアル、熊野みたい。 そこに「六十万人決定往生」と書いてあることについてのひとくさり有。むかしの人にとってはとてもありがたく、大切な場面だったのだろうけれど、ちょっとねえ。私には難しい。 それより、謡の文句に従って正中に下居したシテが少し顔の角度を変えたり向きを変えたりする、それが美しいのに目を奪われました。ちょっとの角度で大きく表情が変わる面なのですが、その使い方が上手。良いシテが良い面に出会ったという感じでした。 女は上人に「誓願寺」の額を外して「南無阿弥陀仏」の額を書いて掲げてください、と頼む。私はあそこに住んでいるんですよ、と言った先が石塔とは! 驚く上人に山本則重が和泉式部の話を聞かせます。 則重の間語り、今回初めて真面目に聞いたような気がするんですが、位高いなあ。 ところで、この能が作られた当時、和泉式部ってどんな受け止められ方だったのでしょうか。やっぱりニンフォマニア?? こんど調べてみよう。 いよいよ後シテの登場。紫の長絹と白の大口。頭に花の冠ですが、なんだか菊っぽい。一遍上人が「天から花が降ってきた」と感動します。 さて、この乏佐之走という小書きがつくと、通常の序の舞がイロエ風のものになり、弥陀信仰を称えるクリ・サシ・クセが省略されるそうですが、本日はクリ・サシ・クセを含めた形での演出。 これが長い…。仏教の詞章って難しいうえに現代人にはあんまりピンとこないし。 鵜沢久の挑戦なのかな、と思うのですが(彼女こういうの好きそうなイメージ)、疲れのせいかシテ自身の動きにもいつもの大きさが欠けているような気がしました。私が疲れてそう見えたのか。 これは小書き無しだと割と大曲なんだということがわかりました。あまりやられないのは、内容が仏教的だからでしょうねえ。 面は作者不詳の節木増。
by soymedica
| 2019-02-12 22:10
| 能楽
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