銕仙会四月定期公演
2016年4月8日(金)18時より@宝生能楽堂 雲林院 シテ 浅井文義、ワキ 森常好、ワキツレ 館田善博、森常太郎、アイ 三宅右矩 笛 一噌庸二、小鼓 大倉源次郎、大鼓 佃良勝、太鼓 三島元太郎 後見 野村四郎、長山禮三郎 地謡 浅見真州ほか 狂言 子盗人 シテ(すっぱ)三宅右近、アド(主人)高澤祐介、小アド(女)三宅近成 歌占 シテ 馬野正基、ツレ 安藤貴康、子方 馬野訓聡 笛 藤田貴寛、小鼓 田邊恭資、大鼓 亀井洋佑 後見 観世銕之丞、山本順之 地謡 清水寛二 雲林院は初めて見る演目、と思っていたら観世会の定期能で観ていた。それも万三郎で。でも、寝ていたらしい。 まず正先に桜の作り物が出されます。これ、こだわって本物を使ったらどうだろうか。 森常好登場。大口をはいた役が似合うな。 この蘆屋の公光は伊勢物語の読みすぎで夢にまで出てきたので、若者二人を連れて雲林院にやってきたのでした。上げ歌のところものすごくきれい。 すると、おじいさんがやってきて一行に声をかける。ここまですごくテンポよく滑るよう。おじいさんは全体に金茶でまとめて、腰帯が緑でおしゃれ。舞台の桜とマッチして春を感じさせます。 公光はもともと話好きなので、業平と高子の夢を見たことをすらすらとしゃべってしまう。 すると、おじいさんは自分は業平かな、そうじゃないかな、と言って消えていく。 シテとワキの息がぴったりあってなんだかきらきらした前場でした。もそっと、地謡がしゃれた感じでもよかったのにな。 そして、公光は花のもとでまどろむはずなのに、桜は片付けられてしまうのでした。 (実はアイ語りのところでうとうとしちゃったので聞いていませんでした、失礼。) 在原業平登場。初冠のための目の錯覚かもしれないけれど、なんだか背が高くなったよう。やはり面は私には高貴な美男子には見えないけれど、ちょっとうつむいたところを斜め30度くらいから見るとまあまあ見られるかな。 とてもきれいな序の舞。貴公子を感じさせる舞でした。 浅井義文って地味だけれど味わいのあるシテ方ですね。 初めての演目でしたが満足してじっくり味わえました。 常太郎君、もそもそしない! 面は前シテが笑尉 河内作、後シテは中将 河内作 子盗人。前に一度観た時には、子供を寝かしつけた乳母は退場したような気がしたのだけれど、今回は舞台上に残っていました。 実生活でも人が赤ん坊をあやしている姿は楽しいものですが、それをうまく取り込んでいますね。 今日覚えたひとこと: 相撲の果ては喧嘩になり、博打の果ては盗みになる。 ちょっと不気味な歌占は好きな演目です。馬野も上手だし。 安藤お兄さんに連れられて出てきた馬野訓聡くん、少年ぽい顔つきになっていてびっくり。もともとはツレではなくワキがやっていた役だとのこと。それで安藤の装束もよくワキが着ている長裃なのかな。 実は上掛の詞章がなかったので喜多流の詞章(国立能楽堂パンフレット)を持って行ったのですが、差異がなかなか面白かった。 親を探しに行く子供に、良く当たる占いをさせてみようと待つ二人。出てきた歌占をする男、髪は真っ白なのに顔は若い(今回は洞水作の若男でしたが、直面や邯鄲男のこともあるそうです)。この面の選択がなかなか難しいと思いますが、今回、全体の雰囲気に良くマッチしていたと思います。それと、狩衣の下からちらっと見える着物の柄が素敵。 占いをすると、ツレの父の病気については心配ないと。そして少年の父の行方に関しては「もう会っている」。この親子の問答が緊迫してリズムも良く、満足。お父さんとしてはここに一つの見せ場を持って来たかったのでしょうが、見事に成功しています。 後半も地謡が力強く、聞かせます。渡会はいやだいやだと言いつつ、地獄の曲舞を見せます。そのうちに渡会は狂乱しますが、ふっと正気に戻って息子を連れて帰って行きます。後半はもっとおどろおどろしい方が私の好みですが、楽しく観られました。 囃子陣も若々しくて良い感じでした。 ところで、この歌占について天野文雄がパンフレットに面白いことを書いていたのでちょっと引用させてもらいます: 伊勢神道は鎌倉中期(1275)から十年ばかりの間に渡会行忠、渡会家行によって集大成されたが(中略)こうして成立した伊勢神道の特色は神を仏の垂迹とする神仏習合の両部神道にたいして、神本仏従の立場に立つ反本地垂迹思想であり(中略)伊勢の神にとっては渡会氏のシテが仏教的な教戒である「地獄の曲舞」を歌うことはとんでもないことだったはずである。 前の列の女性、雲林院も歌占もなんと手書きの詞章を持っていらした。びっくり。
by soymedica
| 2016-04-13 11:44
| 能楽
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