銕仙会十二月定期公演
2015年12月11日(金)18時より@宝生能楽堂 景清 シテ 浅井文義、ツレ 観世淳夫、トモ 谷本健吾、ワキ 宝生閑 笛 一噌仙幸、小鼓 曾和正博、大鼓 柿原崇志 後見 浅見真州、北浪昭雄 地謡 観世銕之丞ほか 狂言 禁野 シテ 山本東次郎、アド 山本泰太郎、山本則重 巻絹 シテ 鵜澤光、ツレ 安藤貴康、ワキ 館田善博、アイ 山本凛太郎 笛 一噌隆之、小鼓 幸正昭、大鼓 亀井洋佑、太鼓 大川典良 後見 観世銕之丞、永島忠侈 地謡 清水寛二ほか 十二月とは思えない暖かい毎日。でも、日の落ちるのは早い。 源平合戦の後日談の景清。好きな曲です。銕之丞の解説では、銕仙会としても大切にしたい曲だそうです。 まず藁屋が大小前に出され、景清の娘人丸と従者が登場。この次第が全然合わない。淳夫の基線のぶれる謡を誰か何とかしてあげないといけないと思う。誰かの謡を思い出させるな、と思ったがワキ方の村瀬の謡に似ている。 だんだんイライラしてきたところで、「松門独り閉じて…」と綺麗な謡が聞こえてきてホッとする。浅井は地味な感じの人ですが、ここ何回か観た感じではとても上手で楽しめる舞台でした。 シテとトモの会話は会話になっているのですが、ツレとはちょっとかみ合わない感じ。役者が「やりにくいな」と思っていると見所にも伝わるものですね。 「景清を知りませんか」と尋ねられ、零落の身を思って「そんな人は知らない」と返事をする重要な場面なんですが…。 ま、ともかく諦めた二人は地元の人に景清の行方を聞いてみます。宝生閑の里人。もともと顔色の良い人ではありませんが、ますます色白で、かつ息が続かない。装束をつけて舞台に出て来るだけでやっとなのではあるまいか。ファンとしては嬉しいけれど、初めて能を見る人はびっくりしてしまうのでは。今回屋島の語りを促した後、切り戸から出て行ったのも演出ではなく、閑の体調をおもんばかってのことでは無いのか…。 それはともかく、「景清はあの藁屋の乞食ですよ」と里人が景清を呼び出す。昔の名前を出されてカッとなった景清ですが、心を鎮める。この「眼こそ暗けれど…寄る波も聞こゆるは」 のところで、藁谷の柱にすがる型をしたのが印象的でした。 美しく成長したであろう娘を「御身は花の姿にて」というところも聞かせます。 促されて屋島の合戦の語りをします。地謡がとても綺麗。 錣引きの所のシテのしぐさが美しい。 自分のもっとも盛んだったころの話を直に聞かせることができた父は、娘に帰れと促します。娘の肩に手を置いた父の姿を橋掛かりから見守る従者。 最後に父は胸の前まで手を上げますがしおらない。こういうやり方、好きです。 最後、一噌仙幸が立てるよう後ろから隆之が介助していました。笛や太鼓の人は大変ですよね。もっと若いシテ方が座椅子使うのですから、一噌仙幸くらいの年になったら遠慮なく使って長く舞台を務めてほしい。 面の景清は鈴木慶雲作、ツレは小面で銘「閏月」。 禁野。初めての演目です。山本一家の装束の色合わせ、どうも不思議な感じがします。可笑しいかというとそうではないのですが、伝統的な組み合わせなのかな。殺生禁断の禁野、そこで毎日雉を狩る不届きな奴。しかも、禁野の謂れは古くは推古天皇の時代に遡り、雉の化鳥が鷹を殺し云々などと言いだすので、いたずら者がとんちを聞かせて懲らしめる、という話。ほほー、そうきたか、という筋なんですが二度見ようかと思うとそんなに見せ所も無い話だし、あんまり上演されないのも納得できる。 現代の感覚からすると風流というよりシュールな筋書の巻絹ですが、割と好き。三熊野に巻絹を奉納する都からのお使いが、道中音無天神で梅の香に誘われ和歌を詠み、遅参してしまう。罰せられようとするときに音無天神の憑いた巫女が現れ、男の読んだ和歌に下の句を読んで遅参の理由を証明し、ほめたたえるというもの。 ここでなぜに下の句をつけることが男が上の句を詠んだ証明になるのかよくわからないのだけれど。 前の景清に比べ構成が若いので元気の良い囃子で始まります。巻絹を納める都の男登場。安藤は私の基準からするとなかなかハンサムなのですが、きっと髪の毛はこめかみから…。謡はきびきびした感じになってきましたが、ことばが弱いかな。 私のクラスメートでNHKに勤めた人がいて、発音が安藤そっくり。TVに出ている最初のころはそのままの発音でしたが、ある日、本職のアナウンサーのような発音になっていてび っくりしたのを思い出した。あれはボイストレーナーについたのかな。 閑話休題。都から三熊野への道は長いらしく道行が長いのだけれど、その間歩いてみたりせず、ずっと常座にいる。もう少しリラックスした感じでやっても良いような気がするけれど、劇中の男の性格上、そうもいかないんでしょうね。 真面目にやっているのだけれど、そして信心深いのだけれど、遅参してしまう…。 遅刻を怒った勅使が男を縛り上げてしまうと、神様の憑いた巫女がやってきて「せっかく私に歌を捧げて私を苦しみから救ってくれた人をなぜ縛るのか?」と。この巫女というのがいささかアンドロイドめいた美女。装束の着付けでいかり肩に見えるので余計。 神様は縄を一撫でするとほどけるかと思いきや、そんなに神通力があるわけではないので、和歌のやりとりがあったりします。 鵜澤光って実にうまいと思う。 それと、後姿が綺麗。烏帽子から背中にかけてのラインが良く見える席だったのですが、装束の着付けが良いのと本来の姿勢が良いのとで、ほれぼれします。 後半は地謡で舞を見せるのが主眼となります。地謡なかなか良かったと思うのですが、文言が非常に難しい。わからなくても別に筋とは関係ないのですが、謡本を買ってみればよかったか。(ちなみに今調べたら2014年の国立能楽堂パンフレット366号に観世流の詞章がありました。) 満足しました。 面は増髪 谷口明子作。
by soymedica
| 2015-12-14 20:53
| 能楽
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