第28回のうのう能特別講演 2012年1月29日(日)国立能楽堂 夜討曽我 十番斬 大藤内 正面席 9000円 解説「歴史物語としての『曽我物語』」 大津雄一 能 夜討曽我 十番斬 大藤内 シテ 観世喜正、 ツレ 梅若紀彰、五木田三郎、弘田裕一、馬野正基、味方玄、坂真太郎、角当直隆、古川充、小島英明、長山耕三、川口晃平、長山桂三、桑田貴志、谷本健吾、奥川恒治、トモ中森慈元、中森健之介、 ワキ 森常好 アイ 善竹十郎、善竹富太郎 笛 杉信太朗、小鼓 成田達志、大鼓 亀井忠雄 後見 観世喜之、遠藤喜久、佐久間次郎 曽我物語のミニ知識を書いたパンフレットが配られました。系図や地図が載っていて、これはお宝です。 解説が良かった。 曽我物語の仇打ちは1193年のこと。鎌倉時代末期には既に真名本が、江戸時代には仮名本が出たそうです。十郎五郎の親、河津祐通が暗殺された時、十郎5歳、五郎3歳。このとき母は「仇を取るのですよ」と言う。これが二人に刷り込まれてしまうのですが、実際に仇打ちをしようという年齢となった時には時代が変わって仇打ちどころではなくなってしまう(安定した政権になり、しかも仇は頼朝のお覚えめでたい)。しかも母は再婚して曽我の家名のためにも仇打ちを許すわけにはいかない、という状況であったところにこの二人の悲劇があったのだそうです。 また、以前に曽我兄弟の祖父は自分の娘が頼朝と子供をなしたことを怒り、その子を殺してしまうという歴史があった。よって頼朝にとって曽我兄弟は自分の寵臣を殺し、しかも自分の子供を殺した人間の孫、ということになってしまうという皮肉があったと。 ところで、十郎が兄で五郎が弟。十郎は母の再婚先の曽我家の十番目として元服したので十郎。五郎は箱根権現にいたのですが出家を嫌って出奔し、北条家で元服、北条四郎の弟格として元服したので五郎だそうです。 さて、いよいよ夜討曽我の始まり始まり。笛の杉信太郎、髪型がものすごく今風。下を刈上げて、上が長い。下手するとあやしいホスト風。笛はとても良かったです。 まず、シテとツレの二人が登場。ワキが最初じゃないので、あれ、森常好は?と思う。ツレのほうがお兄さんなので偉くって葛桶に座るのですが、ずり落ちそうになってびっくり。でもそうなりながら謡に全く影響がないのでまたびっくり。 前半、見せ場は忠義の家来が「命を捨つることこそ肝要」(何て短絡的な二人、現代なら逆ですけれど)と、刺し違えそうになるのを止めるところ。この前半、なかなか面白いなー、と思っていたら見所でお客さん倒れる。私のちょっと後ろだったのでどうしようかと思って見ていたら、やがて意識回復(したと思う、ちゃんと車いすに座れていたから)。不整脈かてんかんか。しかし、国立にも観世にもAED見当たらないけれど(まあ、今回のは使う事例ではないけれど)置いたら?そしてああいうときには車いすではなくて担架を持ってくるべきだと思うけれど。 さて、気を取り直して、アイ。実際に仇を討つところはありません。アイの大藤内(おおとうない、と読むらしい)が「ああ、怖かった」というところでわかります。この臆病で滑稽な感じとそれをなぶる見回りの掛け合いが面白い。前半ちょっと湿っぽく終わっているから良い気分転換。 そしていよいよ、追われる曽我兄弟の大立ち回り。ふだんならシテをやっているような人がたくさん出てきて派手に切られるだけ、という贅沢。派手に倒れる人、飛びあがる人。こういうのを子供向けの「入門」とか「普及」でやると良いかも。(私の演劇好きの友人は、高校で「井筒」を見せに連れて行かれ、二度と能樂堂に行かないと決心したそうですから。そりゃ退屈だったでしょ。) 最後に十郎が首をとられ、それを悟った五郎がさらに戦い捕らわれる。この十郎の首をとる良い役がワキの役。シテ方だけでもできそうな筋立てなのですが、何かわけがあるのでしょうか。 観世喜正、梅若紀彰、味方玄、それぞれ華がありますが、梅若紀彰はさらに若干影があって面白い役者かも。 液晶にちょっとだけ囃子の説明があったのが新鮮で嬉しかった。(早笛は討ち入りなどのときに使われるが、さらに太鼓が加わると怨霊などのときに使われるとか。) 舞台はもちろん素晴らしかったし、解説、パンフ、そして液晶と至れり尽くせり。9000円は満足できる投資でした。 矢来能楽堂って行きにくいのでまだ行っていません。それとここの会(九皐会)のチケットは社中優先というイメージがあり何となく行きにくい感があるのですが、今度トライしてみようか。 写真は箱根の芦の湯近辺にある「曽我兄弟と虎御前の墓」。そばの説明碑には、「もちろん嘘だ」みたいな説明が書いてありました(笑)。全国に曽我兄弟の墓はたくさんあるそうです。
by soymedica
| 2012-01-31 21:13
| 能楽
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