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国立能楽堂11月企画公演 11月2日

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国立能楽堂11月 企画公演
11月2日(水)午後6時から
古典の日記念 人待つ虫の音
正面席6100円

筝曲 小督の曲
箏 山勢松韻 武田祥勢、奥山益勢
三絃 山勢麻衣子
笛 福原徹

狂言 月見座頭
シテ 山本東次郎、アド 山本則俊

能 松虫
シテ 梅若紀彰、ツレ 柴田稔、谷本健吾、川口晃平
ワキ 福王和幸、アイ 山本泰太郎
笛 一噌仙幸、小鼓 大倉源次郎、大鼓 山本孝
後見 会田昇、山中迓晶


6時開演は非常につらいです。ぎりぎりセーフ。前の席の叔母様の某社のフェイスパウダーのせいだと思うのだけれど、咳がでそうでずーっと辛かった。香水ではないので、本人も気づいていないだろうし、あんなもので咳が出るのは私だけだろうし、困りました。
前の叔母様たちはセンスの良いお召し物の5人組み。日本の今のアッパーミドルクラスを代表するような感じの人たちなのだけれど、5人でチョコ回したり、飴回したり、せわしないこと(笑)。楽しそうです。


筝曲。箏が3、三味線1、笛1の組み合わせで、驚いたことに演奏者が唄う。驚いたのは私だけで、本来こういうものらしい。パンフレットの解説で知りました。箏には山田流と生田流があって、とか日本人としての常識がつきました。箏と笛の音程が私の耳には全く合っていないように聞こえるのも面白い。


月見座頭はとても有名で見たかったものですが、それが山本東次郎で見られるなんてラッキー。盲目の演技(ものまね)に焦点を当てているのではなく、虫の音を聞く様子、そして、なぶるものの演技とそのあとの描写に力が入っているのではないかと思われました。宴会の場面も良し。国立能楽堂なので、今謡っているのが何なのか解説が画面に出るのも嬉しい。シテもアドも持っている扇は中啓でしたね。珍しい。

狂言の笑いって、私には声をあげて笑うほどではないと思うのですが(お腹の中でクスっと笑う感じ)、本日も声をあげて笑う人あり。本当にそれほど可笑しく思っているのか、演者への応援なのか、不明。

尚、検校・別当・勾当、座頭というのは盲人の位(私最近知りました)で、大蔵流ではシテは座頭ではなく、勾当で演じられます。中世以来盲人は特殊技能(音楽など)を専業とし公権力の保護を受けると同時に高利貸をするものも多く、隠然たる社会的権威を持っていて、それに対する一般人の屈折した心理を描いたものではないか、というのはパンフレット解説の村上湛さん。


松虫。笛は一噌仙幸さん、この人の笛ってやさしい感じがします。若干かすれぎみ。吹き方の要素が大きいのか、楽器選びによるのか、習っている人に聞いてみよう。

阿倍野の市の酒売りの、ワキの福王和幸が入ってくる。能楽師一般に私が想像するプロポーションとあまりに違うので、この人が入ってくるたびに私は驚きます。10頭身くらいじゃなかろうか。橋掛りから来て、名のるくらいのところでやっと慣れるのですが、毎回驚く。しかも今回笠なしだったので、余計頭が小さく見える。

その酒屋で毎晩酒盛りをする何人かの男たち。酒屋としては何となく気になる一行らしい。シテは水色を主体とした衣装。ツレは紺の着物に茶の水衣。ツレの柴田、谷本両氏がいかり肩に見えるのは着付けのせいか、シテがなで肩なのか。川口晃平はそんなにいかり肩ではないので、もともとの体形なのかも。全員立ち姿が綺麗。視線も定まっているし。

シテの梅若紀彰さん、いろいろなところで使っている写真は大分若い所のものでは(笑)。良いお声で、詞章もはっきりわかる。語りのところでワキとお話している、と言う感じが二人の姿勢ではっきり感じられました。こういう感じは初めて。直面だからでしょうか。別に表情が動いたりするのではなく、向きを変えるだけなのですが。

昔、この地に素晴らしい容姿の二人の親友があり、その一人が松虫を聴きに阿倍野に出て行った。あまりに戻りが遅いので、迎えに行ったら友が野に倒れて息絶えているのを発見した、という悲しい話があるのです。と、良い声で語って市の人に紛れて見えなくなります。

そして後場。出てきたのは松虫を聴きつつ亡くなった男なのか、迎えに行った友なのか判然としません。渋い金と緑の上下の組み合わせのとても美しい装束です。古いものなのでしょうか、着馴れた感じあり。幽霊というより、幻の男と言う感じです。シテの扇づかいは私の好みではありませんが、頭頚部のラインが決まっていて奇麗。うつむいたりする様子がとても良いと思いました。

名残惜しげに舞い謡い、三の松のところで終えます。
今まで、囃子方が退場するまで拍手しない、という考えを「何てスノッブな」と思っていたのですが、前のおばさま方がシテが退場するなり小声で帰りの相談を始めたのがちょっと煩く(小声でしたからマナー違反とは言えないと思います)、「やはり最後まで余韻を楽しんで拍手しない」というのは意味があるのだな、と思ったのでした。
とても満足感のある舞台だったので、終わってから日本酒で乾杯。


今回は
能の中の能舞台 多田富雄 新潮社。松虫について一章割いているわけではありませんが、酒と能のところで触れられています。

補:松虫後場の若い男の面は「小喝食」だとロビーに掲示してあったそうです。わたくしは気づかなかったのですが、クリコさんのブログから。
by soymedica | 2011-11-03 21:44 | 能楽 | Comments(0)
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