国立能楽堂定例公演九月 月見座頭 小督

d0226702_22490869.jpg国立能楽堂定例公演九月 
2017年9月15日(金)18時30分より

月見座頭 大蔵流
シテ 山本則俊、 アド 山本東次郎

小督 喜多流
シテ 粟谷明生、ツレ(小督局) 佐々木多門、(侍女)大島輝久、ワキ 宝生欣哉、アイ 山本則孝
笛 松田弘之、小鼓 観世新九郎、大鼓 佃良勝
後見 中村邦生、狩野了一
地謡 粟谷能夫ほか


いかにも秋だなー、という感じの組み合わせ。月見座頭はシテとアドが逆のパターンの配役で二度見ていますが、則俊のシテも良かった。私はこっちの組み合わせのほうが好きです。
最近山本則俊、どんどん素敵に。狂言役者の旬は長い。
月の良い晩、虫の音を聞きに来た座頭と偶然出会った男が酒を酌み交わす。興に乗った座頭は舞を舞う(弱法師なんだが)。終わる直前に照れ笑いするところが上手い。
今月の万作の会の会報によると、この曲の終わり方は二通りあるのだそうですが、山本家ではすべて「くっさめ」で終わりますね。

小督は初めての曲。構成が夢幻能とはちょっと違っていて面白い。まず、ワキの登場。ワキが一気に小督の局の状況を説明して仲国に探させる由説明します。ワキはここにしか登場しないのですが、さすが宝生欣哉、見事に舞台の雰囲気を作り上げます。
臣下の伝える言葉を幕前で畏まって聞く仲国。
そして、地謡が秋の夜に馬を駆る状況を謡っている間にシテもワキも中入りしてしまう。

そして小督の局、侍女、里の女の登場。
曲は小品なのに、舞台装置は大掛かりで、地謡側三分の一くらいのところに柴垣と片折り戸をずらっと―並べてしまい、その向こうに局と侍女がいる形になる。やけに写実的。
橋掛かりに控えていたアイ(里の女)が片折り戸を開けて、琴を所望します。アイはまた橋掛かりへ戻り、琴が始まったことを地謡が謡いだすと、ひっこんでしまいます。このアイの着ている小袖が、結構渋くて素敵でした。ツレと被らない色合いで、しかもあまり所帯じみていない、という効果が見事に出ていました。

小督を探す仲国登場。側次かと思うほど肩上げがきつい。懐には帝のラブレター。琴の音を頼りについに小督の住処を尋ね当てる。
無理やり住まいに上がろうとし、入れてくれないのならいつまでも待つと言われ、ついに小督も折れて仲国をあげる。
「入って良いよ」と言われると、肩をおろすのに何となく納得。
作りものも片付けて、舞台全体がお家の中、ということに。

そして二人は笛と琴の合奏をして秋の夜を過ごすのでした。
地謡の安定している喜多流ならではの後場。
小督は帝に直筆のお返事を書いたらしいのですが、その後二人はどうなったのでしょうかね。
本日私は非常に前の方の席だったので、粟谷明生の素晴らしい足遣いをそばで見られてラッキーでした。

小督の局と仲国は愛人関係あるいはそこまでいかなくても惹かれあっていたという説があって、私もこのシチュエーションではそうだろうな、と思っていたのですが、粟谷明生さんのブログによると、この時点で仲国はすでに60歳くらいだったとかで、それはあまり考えられないそうです。

ともあれ、初めて見る小督、良い曲だなー、と思わせてくれる舞台でした。



追加:万作の会の冊子Yoiya2 40巻のMansaku's Eyeによると
「月見座頭」はもともと和泉流には無い曲です。それを父が上演したのは、よろづの会という独演会の第四回(昭和三十年)―中略ー
私の手元に父の手書きの台本が二種類残っていますが、どちらも鷺流のものを土台にしています―略―
二つの台本の大きな違いは終わり方です。鷺流原本に近いと思われる方では、シテの盲人が犬に吠えられて逃げて行って終わりますが、もう一方では「月見にあらで憂き身ぞと、だた今思い(くっさめ)知られける。」などど歌って終わるようになっています。

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# by soymedica | 2017-09-25 22:50 | 能楽 | Comments(0)

チック

d0226702_08471487.jpgチック
2018年8月25日(金)19時より@シアタートラム

原作 ヴォルフガング・ヘルンドルフ
上演台本 ロベルト・コアル
翻訳・演出 小山ゆうな

チック(アンドレイ・チチャチョフ):柄本時生、マイク・クリンゲンベルク:篠山輝信、イザ・シュミット:土井ケイト、母:あめくみちこ、父:大高明良


ドイツの比較的レベルが高いらしい学校に転校生がやってくる。ロシア名前にアジア系の顔立ち。
もう一人、金は無いけれど金のあるような暮らしをしている破綻した家庭の一人息子。
この二人がする夏休みの冒険の話。ちょっと「スタンド・バイ・ミー」に似てるかな。

シアタートラムだから舞台装置は限られるのだけれど、私には実際に目の前に満点の星が見えたり、一面の麦畑が出現したり、ごみの山が出てきたりしたように見えた。舞台装置、演出、そして俳優たちの実力だな。
ビデオカメラをうるさくない程度に使っており、臨場感たっぷり。

旅の終わりと、その後始末、ちょっと泣けます。
もう終わってしまったけれど、再演があったら是非。

柄本時生、ファンになりました。

原作をもとにしたドイツの映画も公開されるらしい。
http://www.bitters.co.jp/50nengo/


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# by soymedica | 2017-09-22 08:09 | その他の舞台 | Comments(0)

MANSAI解体新書 その弐拾七 「古事記」神々のマジカルミステリーツアー

MANSAI解体新書 その弐拾七 「古事記」神々のマジカルミステリーツアー
2017年8月23日(水)19時より@世田谷パブリックシアター

企画・出演:野村萬斎、出演 三浦祐之、こうの史代

今回はなぜか「古事記」。

聞いた中で面白いと思ったことを列挙します。

萬斎が「古事記の時代は色が無いような気がするんですが、それでボールペン古事記なんですか?」と質問したのに対し、三浦先生が、
色の表現は
赤:黄色など明るいものすべて、青:これは幅が広くて緑も灰色も含む、と黒と白、
しかなかったとおっしゃっていました。

現存する最古の古事記は1371,2年の写本だそうで、上巻は神様の話、中・下は天皇の話で、こうの史代さんのボールペン古事記は上巻の漫画化です。8世紀に書かれたものなのに最古の写本が1371年というのは、要するに読む人がいなくて広く写本が作られなかったという事です。
ナルホド。

国産みの話はちょっとエッチですよねー、とここら辺はすごく盛り上がっていました。

アマテラスを天岩戸からひっぱり出すのに鏡を使いますよね。これ、鍛冶職人のアマツマラとイシコリドメが作るのですが、この名前もちょっとエッチで面白い、と盛り上がる。
アマテラスは鏡を知らなかったのか?
鏡を知らずに…というのは能の松山鏡にもありますが、世界的にみられる伝承なのだそうです。

そこから数の話になり、日本で最も聖なる数とされているのは「八」であるけれど、中国は奇数が好きなので、古事記もその影響を受けている、などなど。

国つくりの神話には天から人が下りてくるという垂直下行型(北方型、弥生型ともいう)と、海の向こうからやってくるという水平型(縄文型)があるそうですが、両者が交わるのが日本だ、ということで、
こうの史代さんが、すらすらと素敵な説明図を書いてみせてくれました。(OHPじゃなくて最近はカメラで映すのね)。
これ、写真にとって持って帰れなかったのが残念。

そして古事記には稲作起源の話として、アマテラス、スサノオの両系統があるなどなど、面白いお話でした。

ところどころ萬斎が三番叟と結びつけて質問するのだけれど、これはあんまり効果的ではなくて(そもそも萬斎があんまり古事記しらない上に、三浦先生が舞踊の歴史を知らない)、萬斎無しで三浦先生の話だけ聞きたかったな(萬斎君、ゴメン)。

ということで、ロビーで三浦先生の本を買って帰ったのでした。面白そうです。
あ、こうの史代さんの「ボールペン古事記」もお勧めですよ。



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# by soymedica | 2017-08-28 13:02 | その他の舞台 | Comments(0)

能楽BASARA 第二章Ⅳ 神々の在りますところ (三輪ほか)

d0226702_08413194.jpg能楽BASARA 第二章Ⅳ 神々の在りますところ

樋の酒 
太郎冠者 野村萬斎、 次郎冠者 高野和憲、 主 竹山悠樹

解説 神聖と穢れ 三輪をめぐって  林望

仕舞 高砂 観世喜之

三輪 白式神神楽
シテ 駒瀬直也、 ワキ 森常好、 アイ 深田博治
笛 武市学、小鼓 鵜澤洋太郎、大鼓 佃義勝、太鼓 観世元伯
後見 観世義之、奥川恒治、遠藤義久
地謡 関根知孝ほか

都合が付けばなるべく見たいと思っているこの人の公演。ここ数年はなかなか見る機会がなかったので久しぶり。
チケットを買う時に奥様(?)に「そこのお席の見え方はご存知ですか?」とインタビューされてしまった。凄く感じの良い方。おそらく駒瀬自身の舞台と客に対する姿勢が家族にも伝わっているのでしょうね。

まずは万作家の樋の酒から。安心して観ていられるメンバーで、曲の中心となる謡も良かったのだけれど、なんだかテンポが速くないか?そんなことないのかな???

ついで林望の解説。高価そうな袴姿についついじろじろと。解説のほうな何となく起承転結のはっきりしない話だった。三輪の神は男か女か…。女のもとに通ってくる蛇神様なら、男だけれど、能では女だし、と言ったお話。

観世喜之の仕舞のあと、いよいよ三輪
杉小屋の作りものが笛座前に斜めにおかれる。白式以外の時には大小前におかれるらしい。
森常好の玄賓僧都登場。いつも通り素敵な謡、素敵な所作ですが、何となく迫力がなくなったような。毎日来る綺麗な女性に名前を聞こう(今回の詞章では住みかを聞く)と、つぶやく。林望の解説にもありましたが、住みか聞いてどうするんでしょうね。そんなことして良いのだろうか。

と、そこにその女登場。左手に水桶、右手に数珠。紅の入らない地味な装束ですが、なかなか素敵。かなり長いこと橋掛かりで後ろ向きに謡うのですが、詞章ははっきり聞こえます。そしてなんといっても後ろ姿の佇まいが素敵。
僧とかわす問答が教養高く美しい。確かに何者なのだろう。
で、いきなり寒いから衣くださいと、女は僧に頼む。普通だったら逆でしょ?
ここまでの話、僧は女の魔術にかけられて操られているのかな。

と思っているうちに女は作りものへ。深田のアイも良いな、と思っているうちにうとうとしてしまった。残念。

はっと気付くともう森の玄賓僧都はさっき与えた衣のかかっている家に着いている。
女の美しい声が中から聞こえてきて、僧はうっとり。

引き回しがおろされると小屋は青竹で作られていて、半分程度白いぼーずが巻かれているという清々しい作り。素敵です。
白式なので、白一色の姿に榊の枝を持っています。髪型が面白くて、後ろで髷に結っているように見えました。
そして、前場ではあまり意識しませんでしたが、地謡が綺麗。女神にふさわしい謡です。詞章自体は凄く説明的なのですが、それが気にならない美しさ。

何だかシテも地謡もきれいだなー、と思っているうちに神楽が始まります
この神楽もいかにもすがすがしい舞で、舞っている駒瀬本人が楽しんでいたのでは無いでしょうか。
橋掛かりまで大きく使ったダイナミックな演出で楽しめます。
榊を扇に持ち替えて、天照大神との関係を謡った後、女神さまは帰って行くのでした。
そしてそれをみた玄賓僧都は思わず合掌して見送る。

今回も良かった。
また来年、良い日程でやってくれると良いな。

ところで、
宝生流では後シテが男神の場合もあると聞きましたが本当でしょうか。



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# by soymedica | 2017-08-24 17:54 | 能楽 | Comments(0)

国立能楽堂夏スペシャル 雁礫 鵺

d0226702_12371445.jpg国立能楽堂夏スペシャル 働く貴方に贈る
2017年8月3日(木)19時より

対談 古川日出男、松原隆一郎

雁礫 和泉流
シテ(大名)佐藤智彦、アド(使いの者)今枝郁雄、(目代)井上松次郎

シテ 大村定、ワキ 江崎欽次朗、アイ 深田博治
笛 藤田朝太郎、小鼓 鳥山直也、大鼓 白坂保行、太鼓 徳田宗久
後見 中村邦生、友枝雄人
地謡 長嶋茂ほか


最初に対談があるって気づいていなかったので何となく儲けたような気分に。そして鵺や平家ゆかりの場所の地図付きのハンドアウトも!
売れている「平家物語」の訳者、古川日出男を見られたし。東大の松原先生よりも10歳くらい若いらしいのだけれど、態度bigで、でもちょっと繊細そうで面白い人。
お二人の話の内容も良かったです。


次いで狂言の雁礫。おバカな大名が雁を射ろうとウロウロしているうちに、使いの者が石を投げて雁を仕留めてしまう、という大筋は同じなのですが、雁が烏帽子では無くて羽箒なのは初めてかな。そして大名が下手な弓矢で射ろうとするところが非常に短い。このバージョンもトントンと進んで楽しかった。


そして。熊野参詣帰りの僧が芦屋にやってくる。ワキは初めて見る人。関西で活躍しているらしいが、謡いに特徴のあるビブラートがかかる。コトバのところも、東京とはちょっと違うような。
日が暮れてきたので宿を借りようと思ったら例の「このところの大法にて」よそ者は泊めないと。
地元の人が「川崎の御堂に泊まっても良い」「それはあんたの御堂か」「いや、違う」「だったらわざわざ許可してくれなくても勝手に泊まるよ」というこのやりとり、僧をちょっと偏屈な人にしたのは何か意図があるのだろうか。いつも不思議に思う。
あげくの果てに「化け物が出るぞ」と忠告されると「法力があるから大丈夫だ」という。

僧の偏屈ぶりにあきれた地元の人が居なくなってしまうと、ほーらやってきた化け物。このシテは出だしから声が非常に良く通って聞きやすい。最初の「悲しきかなや身は籠鳥…」のところはこもった謡になることが多いような気がするけれど、この人は朗々と謳いあげる。
「怪しい奴!」「いや、全然私は怪しくありません」というこの会話も毎回不思議。どう考えたって怪しいのにね。

地謡が鵺退治の様子を謡います。今は頼政、ある時は猪の早太、ちょっぴりだけ鵺、と忙しいけれども面白いところ。シテの大村定はあまりクセの無い演技で好感が持てますが、その分インパクトが少ないかな。

偏屈な旅の僧ではあるけれども、堂内で化け物に出会って腰を抜かしているといけない(?)、と土地の人は結構親切なので見に来ます。僧も人恋しくなったのか、この土地と鵺の関係を尋ねます。
深田の語りが解り易くて格調高い。

そして江崎が上歌を謡って化け物の到来を待ちます。ここの謡がこれまた聞きなれない感じのイントネーションで面白かった。そもそも福王流を聞くことが少ないうえに、関西の初めて聞く人だから、という事もあるでしょうけれど。
シテが立ち上がって念仏を唱え始めると、それにこたえて幕のむこうから化け物がエコーのように声を上げる。頭は白、面が銀色に光っているように見えます。

何回も見ている曲なのに気づかなかったのですが、この鵺におびえる天皇ってまだ10歳そこそこで、13歳で亡くなっているのですね。そう思って見ているとこのあたりの話のおどろおどろしさが減じてファンタジーの要素が強くなってくる。

化け物はここでもまた自分を倒した頼政を演じたり、退治され、空舟に押し込められる様子を見せたりするのですが、橋掛かり、それも三ノ松寄りで演じられる部分が多かったので、席は中正面が良かったかな。
ともあれ、鵺は消えていくのでした。
うーん、素敵だったけれど、何となく印象の薄い舞台だった。解説の古川日出男の印象が強かったからか。

面は前シテが真角(しんかく)、後シテが泥小飛出。

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# by soymedica | 2017-08-10 12:50 | 能楽 | Comments(0)