能と近代文学

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別荘にこもってやることの定番といえば読書。

能と近代文学 増田正造 平凡社
1990年11月30日 初版

泉鏡花から野上弥生子まで。三島由紀夫の近代能楽集などのように能を直接の発想の種としたものから、一部に能がモチーフとして使われるものまで、いろいろな作品を網羅しています。
実は私には名前も初めて、という作家が何人かいました。

この人の文章のリズムに慣れるまでやや大変ですが、面白く読めました。
脚注がついていて話題となっている能のあらすじも書かれており、一応本説の能を知らない人でも読めるようにはなっています。
このダイジェストのしかたがまた面白い。

当たり前のことですが、三島由紀夫と夏目漱石に関しては特に詳しく書かれています。
筆者は結構存分に筆を振るったようで、「卒論でも書こうかという人はこの本を論文のネタにしないで、原点に当たるように」と、
大学の先生らしい注意も(笑)。

昔のことで、インターネットや各流儀のホームページなども無く、作家は能に関する知識を簡単に手に入れられなかったのでしょう。
思わぬ人が思わぬところでちょっとした記述の誤りをしているのを、筆者は見逃しません。

それにしても立原正秋はひどかったらしい。かなりのページを割いてこき下ろしています。
立原正秋の作品は読んだことがないのですが、聞くところによると今の渡辺淳一のような立ち位置の作家だったとか。
(まあ、渡辺淳一は知らないことを知ったかぶりをして書きはしないでしょうが。)
立原正秋、高級婦人雑誌によく取り上げられていたのは覚えていますが、死去とともに急速に忘れ去られた作家のようで、わざわざここに取り上げてこき下ろすほどのものか?とは思いますが。でも、そのこき下ろしぶりがまた面白い。

厚いハードカバーの本です。いったいに能楽関係の本は装丁が立派過ぎると思うのですが、これもその一冊。
内容は立派で結構なのですが、重いし、かさばるから、もう少し軽やかなつくりにしてくれたらな、と注文。
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# by soymedica | 2011-08-04 14:18 | 本・CD・その他 | Comments(0)

Interlude

今週一週間は夏休みです。(でも、期待に反して涼しいですね。)

温泉つき別荘(残念ながら他人の)で、本を読んだり散歩したり。
近隣に全く人の気配が無い所なので大きな音で囃子のCDをかけていたら、連れ合いに「フツーのCDにしてくれない?」と(笑)。
しょうがないから今現在は暖炉の世話に明け暮れています。

八月中は観能予定もあまり無いし。来週からは前々から貯めてある本の感想を順次アップする予定です。
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# by soymedica | 2011-08-02 22:13 | 本・CD・その他 | Comments(0)

東日本大震災 義援能

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東日本大震災 義援能 2011年7月28日
@観世能楽堂 18時半より
正面席3000円


仕舞
経正 キリ 岡久広
網之段 観世芳伸
善知鳥 寺井栄

狂言 二千石(じせんせき)
野村万作 石田幸雄

仕舞 
放下僧 武田宗和
雲林院 高橋弘
融 山階彌右衛門

舞囃子葛城 大和舞
関根祥六
大鼓 柿原光博、小鼓 森澤勇司、太鼓 小寺真佐人、笛 反田智子

能 熊野 読次之伝 村雨留 墨次之伝 膝行留
シテ 観世清和、ツレ 藤波重彦 ワキ 宝生欣哉
大鼓 國川純、小鼓 鵜澤洋太郎、笛 森田弘之
後見 上田公威、観世恭芳



仕舞舞囃子もそれぞれに面白かったのですが、寺井栄の謡はちょっと趣味ではないかもしれない…。



狂言二千石。京都見物に行って、はやりの謡を仕入れてきた太郎冠者。それはみだりに謡う謡では無い、成敗してくれようという主人。泣いたり、笑ったり。最後は笑って終わります。
とても面白かったのですが、なんだか本日万作さんはお疲れのご様子。何がどうだったというわけではないのですが、そう感じました。働きすぎでは。



熊野の二人を現代に置き換えると:

男。年齢不詳。スポーツクラブで鍛えている筋肉の付きすぎない引き締まった体形で、若干日焼け。金のアクセサリー有り。どう見ても定時に出かける仕事では無い。金は妙にありそうな暮らし向き(実際にあるかどうかは別)。
女。目のあたりがポワンとした美人。しかも男と不釣り合いな清楚さ。色白で華奢。頭は良いが自己主張が少ない。
で、このカップル男がわがまま。暴力は振るわないけれど、DVではないかと疑うほどわがまま。どうでも良いけれど未入籍。あるいはどちらかが結婚している。

実家の母を見舞いたがる女。離れると寂しいので(ここんところ事業に影が見えて、一人になるのが余計寂しい)、女をつれて無理やりパーティー。女も心やさしいから付き合うが、男に見えないところで母を思って泣いている。それを男は感じて余計鬱々と楽しまず。でも、無理に宴会やったけれど、「もう止めた止めた。熊野ちゃん、そんなに気になるなら実家にちょっと行ってこいよ」。

朝顔は容貌も品も頭も熊野よりはちょっと落ちるけれど、とっても気の良い熊野の親友。「熊野ちゃん、お母さんのこと取っても心配しているけれど、カレシも良い人だしねー。」なんて他の友人に語るタイプ。

そして、熊野は母を見舞った後、宗盛のところに戻ってくるのです。でも、この恋はハッピーエンドにはならない。


やはり観世清和上手。雰囲気があります。そしてさすが家元の舞台、地謡からなにから、安心して見ていられます。当たり前の話ですが…。

家元は膝行がとても上手なので評判とのことですが、私、能の膝行は初めて見たのでよくわかりませんでした(インド人の召使のやるような、立て膝で進むやり方を想像していました。あれは着物では無理ですね)。

最初に見たのが喜多流の湯谷だったので、いろいろ細部の違いが面白かったです。喜多流では確か朝顔は手紙を渡すと早々に居なくなったと思う。そして、熊野の書く短冊は今回のように華やかなものでは無かったと記憶しています(今回は赤の地に金の模様)。

そして数々の小書き。村雨留や読次之伝をわざわざ小書きとすることに異論はありませんが、墨次之伝、前もって観客に断わっておくほどのことか??と思うのですが。



とても満足しました。3000円はお得。満席だったのも納得です。ですから最後にちょっと寄付して帰りました。

しかしですよ、能楽堂ではスーパーのビニール袋、あれ、禁止してはどうですかね。後ろの爺さん、あれを手に持っている上に手をなぜだか小刻みに動かすから、ずーっと音がしていて閉口した。
今時アラーム時計をしている人もいて、どこかで9時に「ピピ、ピピ」といったのにもびっくりしたけれど。



色々な本に書かれている能ですが今回は
脳の中の能舞台 多田富雄 新潮社
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# by soymedica | 2011-07-29 00:26 | 能楽 | Comments(0)

五蘊会 十五周年記念能

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五蘊会 十五周年記念能

7月23日(土) 14時より
@十四世喜多六平太記念能楽堂
正面席後方 8000円

仕舞
邯鄲 狩野了一
花筐 内田成信
船弁慶 金子敬一郎

狂言 蝸牛 
シテ 野村万蔵、アド 野村太一郎、小アド 野村扇丞

仕舞 
難波 塩津哲生
枕慈童 友枝昭世

能 望月
シテ 友枝雄人、ツレ 友枝真也、子方 友枝大風
ワキ 宝生欣哉、アイ 野村万蔵
大鼓 國川純、小鼓 成田達志、笛 一噌隆之、太鼓 助川治
後見 塩津哲生、内田安信、中村邦生


五蘊会とは、どうやら友枝家の人たちに師事しているお弟子さんのお稽古の会らしい。ですから翌日の素人会が本番。本日はプロの日、と言うことらしい。見所は若い人も多く、子供の姿もちらほら。友枝大風君を応援に来たのでしょうか。
帰りがけに「この人絶対どこかで会った人だ」と会釈してから気付いた。馬場あきこさんだった。失敗失敗。

まずは狂言蝸牛から。前に野村万作で見たことがあるのですが、若干の細部の違いをのぞいては同じ。長寿の薬に蝸牛を取ってこいと言われた太郎冠者が山伏を蝸牛と思いこみ…、という話。

「雨も風も吹かぬに、出ざ釜打ち割ろう でんでん むしむし でんでん むしむし(雨も風もないのに出てこないなら、からを打ち割ってしまうぞ 出て来い虫)」という囃し言葉が面白いとおもったら、NHKの「日本語であそぼ」にも取り上げられたことがあるのですね。


能 望月。仇打ちものです。信濃の安田荘司友春の家臣であった小沢刑部友房は、友春が望月秋長に殺されたため今は近江守山(琵琶湖の南岸あたり、京都を出て最初の泊あたりだそうです)の宿の亭主となっている。この小沢刑部友房が友枝雄人。この人、頭の刈り方がやけに今風。詞の言い方がものすごく真面目そうな人ですね。

ここに偶然かつての主人友春の妻と幼い息子の花若が落ちぶれてやってくる。橋掛りで親子向かい合って謡うのですが、子供と大人が二人で謡うってとても難しそうです。粟谷明生さんも「ここで合わないと子方は一気に不安になってしまうので、ここの出だしが肝心」と言っています。子方の大風君は緊張しつつものびのびと謡えたようでした。

宿の主人と互いに昔を懐かしんでいると、なんと都合の良いことにそこに仇敵望月(宝生欣哉)が…。望月は友春殺害の申し開きのために京都に13年も留め置かれたのだけれど、晴れて領地を安堵されて帰る途中。仇打ちを恐れて名前を隠しているのだけれど、バカなお付きの野村万蔵君が守山の宿で「これは信濃の国に隠れもなき大名。望月の秋長どの…。」と言っちゃう。宝生欣哉、当たり前と言えば当たり前ですが、声や節回しが閑そっくり。顔はあんまり似ていないような気がするのですが。

この望月、殺害事件のために13年京都に留め置かれたということは、子方は少なくとも13歳にはなってなくてはならないはずですが、友枝大風クンは、もう少し小さそうですね。

そこで、これは良い仇打ちの機会と、未亡人と息子は盲御前とその手を引く息子のふりをして舞を舞い隙を窺う。子供は「何を謡うか」と、望月に聞かれ、「一萬、箱王が親の敵を討つたる処をうたひ候ふべし」そりゃ、まずいでしょう。でも、「苦しからず」、と言われ、謡います。クライマックスではやる子供が「いざ討たん」と叫び、一瞬緊張する場も。いやいや、「打つ」とは八撥のことです、とごまかして子供がまた芸をしている間に宿の主人の友房も着替えてきて獅子舞を披露。芸能を見て良い気持ちに酔った望月を花若と友房が刺殺す、というお話。宿の主人が獅子の頭を脱ぐところが面白い。後ろを向いて衣のしたで脱ぐと、鉢巻をした仇打ちの姿が…。子方もちゃーんと鉢巻をしてもらうのですよ。

さっきまでいたお供の間狂言がどこかに逃げて居なくなっちゃうのもとってもラッキー。でも、京都に13年も留め置かれた領主かもしれないけれど、領地に行くのにお供一人で行くのですかね。

と言うとこで、筋は何だかご都合主義なのですが、子方がとっても頑張るので楽しく見られる能です。大風クン、よほど練習したのでしょうね。危なげなく見られました。難しい場面の前ではしかめっ面しているのが凄い。
そしてたいして出番はないのですが、友枝真也、この人も注目株かもしれないと思った今日でした。



どうもこの能楽堂は暑かったり寒かったりとサーモスタットの効きが良くない。それとも途中で止めたのか?扇子を使う人が多くなったら空調が入ったのだが、このとき結構な音がする。クラシックの会場だったら誰も使ってくれなくなっちゃうような音。どうにかしたほうが良くありませんかね。


いろいろな本に書かれている演目ですが、
演目別に見る能装束 観世喜正 淡交社
クライマックスの獅子舞の装束について詳しいです。
また、粟谷能の会のホームページ「演能レポート:子方を通しての『望月』」には子方をどうやって教育するかについて書かれています。

写真は箱根芦の湯の熊野権現です。望月は冬の季節の話らしいので。
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# by soymedica | 2011-07-24 17:57 | 能楽 | Comments(0)

世阿弥を語れば

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世阿弥を語れば 松岡心平編 岩波書店

松岡心平がいろいろな人と能、世阿弥を語り合った本です。既に絶版ですが、比較的古書としては手に入りやすいかと思います。
能や世阿弥の著書に関しては、いろいろな人が色々な見方をしているのだな、と。それぞれの方に一言語っていただきましょう:

大岡信:世阿弥と言う人は、文化ということで言えば、鄙の文化と都の文化と二つを持たざるを得なくて持っちゃった。

横道萬里雄:観客の心をつかむことによって芸能というものは存在意義があるんだということを正面に打ち出して……(中略)……それともう一つ、言っていることが大変具体的です。

松岡正剛:僕はやっぱり薄皮とか肉とか骨とか魂とか心とかという、積層空間的に物をとらえる能力を世阿弥にすごく感じますね。

多木浩二:あえて能に即していうと、芸能から芸術に移行するところが、彼の伝書を読んでいると、私には見えるような気がします。

水原紫苑:禅竹の方は詩ですよね。世阿弥は和歌かもしれませんけれど。

多田富雄:世阿弥の中にも「見る自己」と「見られる自己」があって、世阿弥はそれをはっきりと意識してバランスを取っていた。(中略)ただ、そういうふうに本当に自分を客体化できるような人は、尊敬はされるかもしれないですが、好かれませんね(笑)。

渡邉守章:「ドラマ」という言葉を、その言葉が書き込まれていたはずのヨーロッパ語で使うときは注意しないとだめですね。また、軽々しく「シンボル」とか「シンボリック」とか「象徴的」と言う言葉を使うのも危険です。

渡辺保:六平太が偉いのは、疑問を持っていたというところですね。能の一般の関係者は、その疑問すら持っていない。そこが私は問題だと思う。観客も、何で能の物語がこうなるのか考えてほしい。

観世栄夫:銕仙会の若い人にしても、型通りとか、正確にやるというのに少しこだわりすぎていると思うんだ。それは大切なことなんだけれど、そこが終点では無いんで、そこが出発点なんでね。

丸谷才一:後鳥羽院に限らず、一体に僕が褒めると人気が上がるんだけどなあ(笑)。だけど正徹はだめだなあ(笑)。

土屋恵一郎:世阿弥だったらそれは心象だったかもしれないが、禅竹の世界は実は心象風景ではないんですよね。



夏の夜にさらさらと読める本です。
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# by soymedica | 2011-07-22 00:04 | 本・CD・その他 | Comments(0)