国立能楽堂普及公演三月 濯ぎ川 昭君



d0226702_13175431.jpg国立能楽堂普及公演三月
2017年3月11日(土)13時より

解説 
鏡の虚実 能「昭君」の機巧(からくり) 大谷節子

狂言 大蔵流
濯ぎ川
シテ(男)茂山千三郎、アド(妻)茂山逸平、(姑)茂山あきら

能 観世流
昭君
シテ(呼韓邪單于)観世銕之丞、(白桃)清水寛二、ツレ(王母)西村高夫、(昭君)観世淳夫、ワキ(里人)館田善博
笛 竹市学、小鼓 鵜澤洋太郎、大鼓 安福光雄、太鼓 徳田宗久
後見 浅見真州、浅見慈一、谷本健吾
地謡 浅井文義


大谷節子先生のお話から。写真で見て綺麗な人だと思っていましたが、実物もスレンダーな美人。

昭君は世阿弥より前の時代の金春系の能と言われており、古形を残す数少ない曲です、からはじまって、
ざっとあらすじのおさらいをしたのですが、その時:
これの能評に「呼韓邪單于の悲劇性をみた」という物を読んでびっくりした、とおっしゃっていました。プロの能評家としてはあるまじきことらしいです。ま、私も「呼韓邪單于ってかわいそう」と感じたことは過去にありますが、能の成立過程などを知っているプロが言うべきことでは無いらしい。(大体誰が書いたかは想像がつく)。

王昭君説話の変遷についてが面白かった。
王昭君と言うのは実在の人物で、「漢書」に初出。他の五人の漢人女性とともに呼韓邪單于に嫁いだ人で、呼韓邪單于との間に男子を一人もうけるが、2年後に呼韓邪單于が死に、その息子と再婚し2女をなしたとの記載がある。
時代が下って六朝時代になると、あの有名な「絵描きに賄賂をやらなかったので…」、という説話がつけ加わる。そして既に平安時代にはこの話は日本に入ってきていた。
今昔物語にある王昭君説話では、なんと「自分の美しさを頼んで賄賂を贈らなかった王昭君の驕慢」が非難されるということになっているそうな。
能ではさらに前半の「両親の悲しみ」と、呼韓邪單于が父母に会いにやってくること、がつけ加わる。
そしてこの能では「鏡」が重要なモチーフとなっていること。世阿弥以降の能では登場人物を結びつけるのは「夢」であるのに対し、ここでは「鏡」というのが特徴的である、などのお話がありました。


狂言の濯ぎ川、観たいと思っていた新作狂言(もう茂山家では「新作」の範疇には入れていないらしい)です。大谷先生によるとこれはフランスの笑劇ファルスを下敷きにしてはいるけれど、直接狂言に翻訳されたのではなく、文学座の飯沢匡が劇にして、さらに武智鉄二が狂言化したものだそうです。

入り婿で嫁と姑にこき使われている男が最後に一矢報いる、という話なんですが、こき使われている場面では見所の男性陣に共感が走ったような…。最後、姑が「婿のやるべき仕事を書いた書付」を破って終わりなんですが、「やっぱり働け―」で終わったほうが狂言らしくは無いだろうか?
ともあれ、面白かった。
また見たいな。


昭君は古形演出の復元。普通は前シテの白桃(正君の父親)だけが中入りし、後シテの呼韓邪單于となって登場するところを、父母は舞台に残り、後シテは別の役者が演ずるという形になります。
まず、一部が枯れた柳が正先に出されます。
里人が白桃王母夫婦の状況を簡単に説明。これが「里人」なんですけれどやたらにキンキラした装束。中国のイメージだとそうなるのかな。
箒を持った夫婦も登場します。高砂のようですがおめでたい様子はなく、「ちりかかる、花の木陰に立ち寄れば、空に知られぬ雪ぞ降る」と。これが物凄くきれい。清水&西村ってやはりなかなか良いです。

お爺さんはなかなかハンサム。白髪をポニーテールに。おばあさんはそんなに美人ではない。昭君は御父さん似だったのね。
昭君が胡の国に行ってしまうことになったお話の地謡が気分よく、私はだんだん眠くなってきたぞ。
夫妻は昭君の形見の柳が枯れかけてきたのを悲しんで、枝に鏡をかけて娘の様子を知ろうとします。

昭君は子方ではありません。
やはりこの人は謡をどうにかしないと。どこかに武者修行に出てはどうか。姿はなかなか美しいのに。

舞台上、地謡側に白桃、脇正面側に王母、正先に柳、その後ろに単于、さらにその後ろに昭君という配置になっていて美しい。
そして呼韓邪單于の面は黒癋見というのだそうですが、グレーを基調に渋いピンクがさしてある面白い面です。
唐の洗練された人たちからみたら、異民族は恐ろしい鬼だったのでしょうね。

鏡を見た呼韓邪單于は「面目ない」と袖をかずいて下居。そして帰っていくのでした。

この演出のほうがわかり易いし、「あんなトンデモナイ男のところに美人の娘が!!!」という両親の反応も理解しやすいし、いろんな役者が見られるし(!)面白かった。

面は
白桃が木賊尉、呼韓邪單于が甫閑作の黒癋見、王母が姥、昭君が近江作・銘「早蕨」の小面

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by soymedica | 2017-03-23 13:18 | 能楽 | Comments(0)
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