第十回日経能楽鑑賞会
2016年6月9日(木)18時30分より@国立能楽堂 酢薑 シテ(酢売り)野村 萬 アド(薑売り)野村 万蔵 安宅 勧進帳・酌掛之伝 シテ 浅見真州、ワキ宝生欣哉、ツレ(源義経)坂口貴信、ツレ(義経ノ郎等) 西村高夫、浅見慈一、長山 桂三、北浪貴裕、谷本健吾、柴田稔、伊藤嘉章、清水寛二、武田 尚浩、 アイ(強力)能村晶人、(太刀持)野村虎之介 笛 一噌隆之、小鼓、林吉兵衛、大鼓 佃良勝 後見 観世銕之丞、永島忠侈 久々の脇正面。幕が上がるときのばさっという音に驚く。 狂言の酢薑は津の名物薑売りと、泉の名物酢売りとが楽しく洒落を言い合うもの。二人の明るい演技が楽しい。さすが萬と万蔵。 安宅は良くかかる演目ですが、子方ではない義経は初めて。 富樫登場。真面目そうな役人です。山伏を捕まえる関が作られたことを観客にわからせ、部下に「山伏を通してはいけないよ」と。 小鼓はなじみのない方。掛け声は良く通るのですけれど、何となく音が弱い。 ずらずらと偽山伏登場。全員色違いの水衣できれい。弁慶はヤグルマギクの大口、義経は銀色に光る大口ですが、後は皆さん白。謡はとても揃っていて力強く綺麗。動作も揃っている。となると気になるのは視線の向け方。一人だけ視線が下向いていたりするととても目立つので、そこにも気を配った方が良いかもしれない。 新関が作られたらしいと、皆で相談。「打ち破っていくぞ」とはやる者。ここ、かっこよかったし、諌める弁慶も老練な感じで息が合っています。結局畏れ多いことながら義経に変装してもらうことに。義経が大人だと、子方の時とは違い微妙なニュアンスが生まれてくると、まずここで感じさせます。 強力は後見座で笈と笠、杖を置きます。なぜか笈は後見座に、笠と杖は笛座のわきから出てくる。ここで義経の装束の肩を上げるのだが、常々私が恐れていた通り、後見二人とも結構なお年なので近距離作業が今一つ。ちょっとスリリングでした。 偵察に行った剛力は関の厳重な警備と木の根元に転がる山伏の首に肝をつぶして駆け戻ります。 一行は「本当の山伏だ」と言って抜けようとします。なぜ富樫は本物の山伏を通すことにしたか、について最近刊行された喜多流の粟谷明生の本に、なるほど、と思わせる解説があったので、興味のある方は読んでみてください。 実はこのクライマックスのところがあまり面白くなかった。勧進帳を読み上げる場面。浅見はあまり声の通らないタイプである上に脇正面とは反対を向いて読んでいるので、迫力がない。ここはもうちょっと切羽詰まった朗々とした読み上げが聞きたかったです。 そして関を無事通ったか、と思うと肝心の義経が止められてしまう。これにいら立ったふりをした弁慶が「この役立たず!」と義経を杖で打つ。 そして通す、通さないの押しあい。うーん、これも脇正面だとちょっとね。でも、水衣の色がきれい。 義経も関を通り、山伏姿に戻ります。 関から離れて一安心。押し合いの間後見座にいた弁慶と義経が位置を替えます。このとき上座を譲る弁慶が義経に目礼する様子が面白い。弁慶は主人を打ってしまったことの弁明、義経はそれに対してお許しの言葉を。これ、大人の義経でやると、全体がboy’s loveじみてきて、「なるほどそういう話だったのね」と思わせる。 と、そこに富樫が酒を持ってやってきたとの知らせ。顔を見合わせる義経と弁慶。 ひとまず義経は隠れ、弁慶たちがお相手を。お酌を試合、弁慶が舞を舞います。この場面が通常とちょっと違うのが「酌掛之伝」。舞いつつ橋掛かりまで行った弁慶が一の松でそっと酒を捨てるのが印象に残ります。 舞はもっと迫力あっても良かったかな。何しろ弁慶ですから。浅見真州というとジェントルマン、というイメージが強いので、余計上品に感じてしまうのかもしれません。 そして一行は急いで富樫の前を失礼するのでした。 大人の義経、面白かった。子方では出ない微妙なニュアンスがでるので。 そして「船弁慶」の義経が大人でもそんなに艶めいた感じにはならないのではないかと思うのですが、この「安宅」の義経の役者が大人になると先に書いたように色っぽい感じ。 浅見真州、プロデュース力のある人だと思っていましたが、今回も面白かった。 上記にあげたのは 夢のひとしずく 能への思い 粟谷明生 ぺりかん社
by soymedica
| 2016-06-13 22:51
| 能楽
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