第十回香川靖嗣の會
2016年4月2日(土)14時より@十四世喜多六平太記念能楽堂 お話 馬場あき子 狂言 八句連歌 シテ 野村万作、アド 深田博治 能 野宮 シテ 香川靖嗣、ワキ 森常好、アイ 高野和憲 笛 一噌隆之、小鼓 大倉源次郎、大鼓 柿原崇志 後見 塩津哲生、中村邦生 地謡 友枝昭世ほか 昔に帰る花の袖 月にと返す景色かな 桜が満開の土曜日。 まずは馬場あき子さんのお話。ざっと六条御息所と源氏の関係を話しつつ、いろいろなエピソードを教えてくださいました。源氏物語が好きな人には常識なのでしょうが、六条御息所にはモデル(徽子女王)がいた、というのは初耳でした。 この野宮の場面というのは舞台上で無常(旅の僧)と妖艶(御息所)が出会うところにあること、文言上は御息所があの車争いの時の車に乗って登場するということで御息所の気持ちを見事に表していることなどをお話になりました。 小柴垣は源氏との思い出の象徴、鳥居は聖なるもののシンボルであり、その鳥居を出たり入ったりすることの見苦しさに御息所は気づき、車に乗って帰ったのではないか、とも。お話を聞いているうちに、この巻(賢木)だけでも原文を読んでみようかな、という気分になりました。 狂言の八句連歌。深田博治に借金をしてどうもきまりの悪い野村万作がうまく歌を詠んで意気投合、借用証を返してもらう、という話。万作&萬斎もよいけれど、万作&深田も面白い味わい。 花盛り ごめんなれかし 松の風 桜になせや(なせじ) あめのうきくも 幾たびも かすみにわびん(わびぬ) つきのくれ おいせめかくる 入相の鐘 にわとりも せめてわかれば のべて啼け ひとめもらさぬ こひのせきもり なのたつに つかいな告げそ しのびつま あまりしたえば ふみをとら さて、期待の野宮。一言でいうと、素晴らしかった。というか何がどんなに良かったかがうまく説明できないのですが、技術が向上して細部にまで神経がいきわたると、こんなにまで素敵なお話になるのか、という。私のイメージでは香川は割と地味な人なのですが、花のある舞台でした。 正面に出される鳥居と小柴垣。この小柴垣は正面に平行ではなく、垂直にしつらえられており、安定が良い。 最初に登場するのはもちろん旅僧の森。無常を感じさせるには若干ふくよかすぎるのと、声が良すぎる森ですが、安心できる人選。かなり強弱のメリハリの効いた謡です。僧がふと気が付くと美人がひとりやってきます。シテは声が小さいのですが、とてもわかり易くてきれいな謡。ここですでにはっと引き込まれる感じがします。 野宮の前場ってあんまりおもしろくないな、と思っていたのですが、時間のたつのを忘れました。 面は現代ものなのでしょうか。表情があって、うつむいた加減がとても良いもの。ただの里女ではないな、と感じさせるのにこの面と上手な使い方も一役買っていたと思われます。 中入り。柿原のトレードマークの白いハンカチで汗を拭く様子、久しぶりに見た。長いことかけて絞めなおしていましたが、鼓自体は変えなかった様子。 アイの高野も主張しすぎず良かったです。アイ語りはうまくやってやろう、という気が見えすぎると良くないと思う。 そして後シテは紫の地に金の車の模様の長絹。おそらく面は同じなのでしょうが、さらにすごみの加わった美人に見える。シテの型ばかり見ていて気付かなかったけれど、地謡がなかなか良かった。 序の舞。残念なことに笛が今一つの調子でしたが、それを補って余りあるふんわりした美しい舞。 そして破の舞へ。 鳥居を出たり入ったりと大きな動きをするのは観世流なのだろうか、ここであまり派手な動きはなく、地謡に身を任せての動きのように見えました。 最後、ぎりぎり囃子の笛が幕に入るまで皆しーんと余韻を楽しんでいました。 ちなみに次回は9月3日で遊行柳、来年4月1日は隅田川だそうです。
by soymedica
| 2016-04-10 22:18
| 能楽
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