第七回桂諷会 長山桂三独立十周年記念能 橋弁慶 語那須 船弁慶
2013年11月2日(土)14時から@国立能楽堂 正面席10000円 橋弁慶 笛之巻 弦師 シテ 長山桂三、子方 長山凛三、ワキ 殿田謙吉、アイ 野村万作、石田幸雄 笛 一噌隆之、小鼓 観世新九郎、大鼓 柿原弘和 地謡 浅見真州ほか 後見 清水寛二、鵜沢光 替間 語 那須 山本東次郎 一調 勧進帳 観世銕之丞 大鼓 亀井忠雄 船弁慶 重前後之替 早装束 シテ 長山桂三、子方 長山凛三、 ワキ 宝生閑、ワキツレ 大日方寛、御厨誠吾、アイ 野村萬斎 笛 藤田六郎兵衛、小鼓 大倉源次郎、大鼓 亀井広忠、太鼓 観世元伯 後見 野村四郎、鵜沢久 地謡 観世銕之丞ほか 「長山桂三独立十周年記念」とあるから、皆長袴でぞろぞろ出てくるかと思ったらごくごく普通の会でした。息子さんの凛三くんが大活躍。 普通は橋の上に人切がいるらしい、と弁慶とその一行が言うところから始まる橋弁慶。「笛之巻」の小書が付くと、前場で常盤が牛若をいさめる場面や義経の持つ虫喰いの笛の由来が語られるなど、通常とは全く異なる前場となる、とパンフレットにありました。 まず、囃子無しで子方が登場。羽田秋長という家来が「牛若丸が勉強もせずに人を切ってばかりいる」と。常盤御前に叱ってやってください、というこの辺は三の松付近で床几にかけた常盤御前と秋長のやりとり。そのあと舞台にはいり、常盤御前は牛若にお小言。ここで笛の由来も語られます。 この前場の地謡が今一つでありました。やっぱり遠い曲だからだろうか。 牛若大いに反省し、母子で中入り。でも、子供のTVゲームと同じで「あと一回」となっちゃうんですね。今晩も五条の橋の上で犠牲者を待ち構える牛若。 弦師の小書きは狂言方のもの。弦師の万作は首から筒を下げて登場。「恐ろしい人切がいるぞ」と怯える弦師の万作とからかう石田幸雄。この二人をこういう風にみられるなんて贅沢。 そしていよいよチャンバラの場面へ。 実は私はこの曲は全体としてはあんまりおもしろくないな、と思うのですが、このチャンバラの場面だけを見るためのものかと。そして演者によって型付けが違うのが面白い。本日はどちらかというと弁慶主導の感じでしたが、組み合わせによっては子方が引っ張る、というのもあって楽しい。 なぜか私の隣に座っているドレスアップしたご婦人(40歳くらいかな)、この場面で声を出して笑うのですが…。 衣装も豪華で華やかなオープニングでした。 私のもう一つのお目立て、東次郎の語那須。あっという間に終わってしまって残念、と思うくらい良かった。 万作は完全に膝行するのですが、東次郎は途中から中腰になっていました。 ところで、那須与一が使う矢は鏑矢。ウィリアムテルのように子供の頭のリンゴを実戦に使う矢で射ったと思っている方、日本人はもっと風流なのですよ。 銕之丞の勧進帳は、今度の舞台の予行の意味もあるのでしょうか。声を痛めているようでした。練習のし過ぎなら良いのですが、風邪だったら大変ですね。 皆が大好きな船弁慶。「重前後之替」は、前場、後場ともに位が重くなり、シテの衣装、演出が大きく変わる重習いの小書、という極めて抽象的な説明がパンフレットにありましたが、ま、後シテはずっと長刀でした。 子方の義経と一同登場。子方の義経はすっきりとした美少年でなかなかよろしい。ワキの同吟は良かったです。大日方寛ってなかなか良いな、と最近思います。森常好の次の世代の有望株ですかね。 そしてアイの萬斎が橋掛かりに。この前の「解体新書」で歩き方の話が出たのでちょっと注目していたら、たしかに東次郎も萬斎も右足が出るときには右肩を出している。 ここから先は静を連れて行くのはどうか、というやり取りの後、静に衣装と烏帽子を渡して舞を舞わせます。この衣装の受け渡しが、後見→弁慶→笛座前でごそごそ、という感じで演出があんまりきれいではなかった。 そして藤田六郎兵衛、なんだがあんまり元気がなかったので気になりました。働きすぎではないだろうか。美味しいものを食べて、座って笛を吹くというのはあんまり健康によい生活ではないと思います。ジョギングとかしないと。 静が舞の途中橋掛かりで涙を抑えるところが綺麗。 そして船が出されます。 「早装束」の小書きは和泉流狂言方のみにある替間で、幕内にて素早く衣装を替えるもの、とパンフレットにありましたが、驚きました。幕内に駆け込んだ萬斎、すぐに駆け戻ったように見えたのですが、上から下まで全部違う装束。あれは下に着込んでいたのだろうか。 実は萬斎のアイはあんまり好きではなかったのですが、こういう派手な役はぴったり。全体を引き締めてしかも面白い。頭にはほくそ頭巾をかぶっていましたが、それを落とす熱演でした。船を漕ぐしぐさがあまり上手ではない狂言方もいるのですが、そこもきっちり決めています。 いよいよ知盛の怨霊登場。面白い足遣いをするので有名な場面ですが、その中でもこの人の動かし方は一段と派手。くるくると良く動きます。(そして隣の女性はまた声を出して笑うのですが…)。 そして弁慶。宝生閑のこの役は前にも見ていますが、今回はこの場面での動きが物凄く抑えてある。無意識なのか、演出上のことなのかよくわかりませんが。 囃子や地謡の人選にも力がこもっていましたね。 楽しい一日でした。 なお、橋弁慶の笛之巻の小書については 能の表現 清田弘 草思社 に詳しいです。
by soymedica
| 2013-11-04 11:27
| 能楽
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