銕仙会11月定期公演
11月19日(金)18時より@宝生能楽堂 正面席6000円 巴 シテ 観世淳夫、ワキ 宝生欣哉、ワキツレ 大日方寛、御厨誠吾、アイ 内藤連 笛 藤田次郎、小鼓 曽和正博、大鼓 大蔵慶乃助 後見 浅見真州、谷本健吾 地謡 観世銕之丞ほか 縄綯 シテ 石田幸雄、アド(主人)高野和憲、(何某)深田博治 雷電 替装束 シテ 長山桂三、ワキ 則久英志、ワキツレ 館田善博、野口能弘、アイ 武山悠樹 笛 八反田智子、小鼓 森貴史、大鼓 柿原光博、太鼓 徳田宗久 後見 長山禮三郎、鵜澤久 地謡 清水寛二ほか 斜め前にどこかで見たようなシルエットのオジサン(失礼、私より若い)と思ったら、松岡心平教授でした。 巴。シテの観世淳夫、おそらく20歳前後だと思うのだけれど、男の子の声って、この年でも安定しないことがあるんですね。ときどきあきらかに不安定になるのですが、シテ方の嫡流はこうやって早めに舞台を務めさせて一人前になっていくのでしょう。 長刀を持って出るとき妙に先が揺れるとか、動きのあるときと静止するときとのメリハリがきっちりしないとかの細部が気にはなりましたが、あんまり厭な感じはしない。一生懸命さ、若さというものは伝わるものなのだと思いました。 色々なブログでも苦言を呈しつつ「この先に期待」とか「まじめ」と評価する人が多いのですが、納得。私も期待して見続けます。 後シテ登場のあと、後見の谷本健吾が浅見真州に何事か耳打ち。浅見氏切戸口から出て行ってすぐに戻る。何事かと思ったら、シテが中啓を持って出るのを忘れていたらしい。 巴の演出は流儀で色々違うということで、前回見た宝生流ともずいぶん違う。あちらの方がちょっと写実的。観世は形見の小袖も何も出ないようですね。結構演技が難しいかもしれない。 ところで、ワキの一行の衣装がとても美しかった。色の名前が良くわからないのですが、ワキは青の角帽子にからし色の水衣のすそから濃紺の着物がのぞき、ワキツレ二人は黄緑の角帽子に青の水衣、濃紺の着物。説明するのは難しいけれど、シテの若々しさに合わせたような雰囲気でした。 縄綯は、石田幸雄。博打の借金のかたに売られてしまった太郎冠者。すねてもとの主人の所に返されて、やれ一安心。もとの主人のところで縄を綯いながら、売られた先の主人一家の悪口を言うところが見せどころ。和泉流は本当に縄をなうと聞きましたが、確かに。まあ、そんなに長く綯うわけではありませんが。 この曲を前に見た時も思ったのですが、太郎冠者のような身分の者が「字が読める」という想定ができるのは日本だけではないでしょうか。最後に自分が話しかけているのが主人では無いと気づいた時の驚愕のストップモーションが面白かった。 さて、終了後後見が出てきて舞台を羽箒(茶室で使うような大きな鳥の羽)で掃除。塵取りは扇。もちろんそんなものではきちんと掃除できず、何本かの藁は次の雷電に持ち越されたのでありました。 雷電。昨年宝生流で観るつもりで見損ねたもの。菅原道真の霊が生前世話になった法性坊律師僧正の者を訪ねます。この霊は童子の姿。なぜでしょうか、法性坊が育ての親だということだからでしょうか。道真は「生前意地悪をした人に雷となって落雷し、殺してやる。御僧は危険だからそのとき参内しないように」と。律師が「内裏に3度請われたら行く」と答えると、道真は怒って本尊に備えてあったザクロをかみ砕き炎を吹く。 何故にザクロ?そういう絵巻物も見たことがあるような気がしますが。 この曲、ワキもワキツレも中入り。何かの間違いかとビックリしてしまいました、後場ではワキツレなしでワキが立派な袈裟を賭けて出てきますが、衣装替えの必然性をあまり感じないのですが…。 後場では舞台の左右に一畳台が並行して置かれ、これを縦横に使って雷神と律師が戦います。動きがあって楽しい演目です。初めての演目でしたが、シテのできは非常に良かったのではなかったでしょうか。そして則久英志がワキツレでなくワキをするのを見るのは初めてだと思うのですが、なかなか立派なお坊様でした。 本日はどちらの演目もアイがとても元気。巴なぞは雰囲気を考えると元気が良すぎるかもしれない。 江戸時代、明治時代の平均寿命が短かったころ、シテもワキもアイも皆全盛は50代までだったのではないでしょうか。そう考えると、20代30代の元気の良い演者が標準だったのか?枯れているという演者はいたのか、そしてどんなだったのか。 なかなか楽しい定期公演でしたが、7割弱の入り。もったいないなー。私としては強くお勧めしたい公演でした。
by soymedica
| 2012-11-11 23:15
| 能楽
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